「あのね、サスケ君……!」 その日、任務終了後、オレはいつものように、サクラに声を掛けられた。 その、掛けられた声にいつもとは違う、どこか切羽詰ったような色合いを感じ取り、オレが渋々と言った態で後ろを振り向けば、そこにはどこか不安げな表情で、もじもじと指を組んでいるサクラがいた。 「……何だ……?」 オレは少しばかり眉を顰めながら、ぶっきらぼうに返事をすると、 「……ちょっと、相談があるんだけど……」 サクラはきっと、何事かを決意したように顔をあげると、真っ直ぐにオレの顔を見てそう言った。 『カカシの日記』 1 「……何だか最近、カカシ先生が変なの。 しきりに私の事を見ながらメモをしてはね、ニヤニヤと笑ってるみたいなんだけど。 何でなんだろ? こんな事、先生に対して言うのは失礼かもしれないけど、でもね? 何て言うのかな……。 時たま、その視線が恐いって言うか……。 ……サスケ君はさ、どう思う?」 「……それはお前の……」 「あ! うん。 それはね、私も考えたの。 ひょっとしたら私の勝手な思い違いで、先生は単に、私達の行動をチェックしてるだけなんじゃいないかって」 オレが何か言おうとしたら、サクラが慌てたようにして、その言を引き継いだ。 ――だが、オレは。 本当は、 『それは恐らく、お前の思い違いなんかじゃないだろう。 あいつは危険な奴だからな。 色々な意味で』 と言おうとしたんだ、サクラ……。 それはオレも、実は前々から気になっていた事だからな。 けれど、サクラが自分自身をフォローするように、先にそんな事を言っちまいやがったから。 「……そんなにお前が気になるんなら、オレが今度、カカシの行動を、それとなく見といてやるよ」 と言う他無かった。 「! ほんと!! 有難う〜! サスケくんっ!!」 それでもサクラには、それで十分だったらしく、オレの言葉に安心すると、 「なら、一緒に帰ろっ♪」 と、満面の笑みを浮かべながら、嬉しそうにそう言って来た。 オレは一瞬、ひょっとしたらこいつは、実は最初っから一緒に帰ると言う事が目的であって、カカシのヤローの事は二の次だったんでは無いのか!?と、思わず疑いたくなってしまったりしたのだが。 「……ふんっ」 オレは、そんなサクラにクルリと背中を向けると、スタスタと先に歩き出した。 「あ! 待ってよ! サスケく〜ん!!」 すると、その態度を、肯定と捉えたのだろうサクラが、オレの後ろをついて歩いて来た。 「それでね! あのね!!」 無言で、一歩前を歩く俺の後を、小走りに付いて来ながら、サクラが一人で喋っているのを、オレは少し熱を持った頬を隠す為に、ソッポを向きながら、それとはなしに聞いていた。 ・ ・ ・ 翌日。任務終了後――。 オレはどうにか、カカシの隙を狙って、あいつが熱心に書いていたモノを盗み見るのに成功した。 案の定、オレが事細かに観察するまでも無く、カカシのヤローは今回も常と同じく、サクラの事をニヤついた顔で見ながら、しきりに何かをメモ書きしていた。 そして、サクラはサクラで、任務中、やっぱりカカシの視線が気になるのか、オレの方をチラチラと見てきては、何事かを訴えたいような視線を投げ掛けていた。 ――サクラ、お前の心配は大当たりだよ。 お前は知らないだろうけどな、お前がオレの方を見るたびに、あいつがその都度、どんな目でオレの事を睨んでいやがったか……。 オレは今日の任務で、何度殺されそうになったか……。 だから、それの意趣返しも篭めて、こうしてあいつのモノをどうにか盗んでやったのだが。 ――何だ、これは? ……日記、のような……? それの表紙には、『カカシの日記帳』と、ご丁寧に題名がちゃんと書いてあった。 ……あいつが日記≠付けてるだだと!? ……あの、遅刻常習犯のカカシがか!? オレは、何とはんなしに、背筋に嫌な汗が流れるのを自覚しながら、ゆっくりとそれ≠フページを繰った。 そして、それの中身を見た瞬間、愕然となってしまった。 ……な、何なんだ!? これは、いったい……!? 一瞬、見なかった事にしたくなってしまったが、しかし、その余りな内容に思い留まり、オレは何とかその場に踏み止まる事が出来た。 「……あいつはいったい、何を考えてるんだ!?」 今直ぐにでも、この日記を焼却したい欲求に駆られながらも、オレはこれから、己がなすべき事を考えていた。 そして、この時オレは心底、 「サクラはオレが守らねば……!! ――あいつにだけは絶対! サクラを渡してなるものか!」 と、そう思い、固く心に誓ったのであった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆ あいつの行動を、これから注意深く見張る必要がある。 あいつはやっぱり、要注意人物だ。 いや、注意≠セけでは事足り無いだろう。 ビンゴブックに載っていると言うのは、伊達じゃないな。 恐らくは、『木の葉一、危ない思考の持ち主、No.1』として、名を馳せてるんじゃないのか? 大蛇丸よりも危ない奴だ。 そんなヤローに目を付けられてしまったサクラも災難だな。 ――ま、その気持ちは……解らないでも無いが…… オレは兎に角、そのカカシの日記帳≠ニ書いて、サクラ観察日記≠ニ呼ぶ代物を、ワザとばれるようにして元の位置に戻しておくと、今後の対策を練りだした。 これは、オレからの警告だ、と言う意味を込めて。 ――しかし、その時。 そんなサスケを遠くからじっと、見ている視線が一つ。 「……見たね。 サスケくん。 このオレの日記≠。 ふっ。 どうやら、色々と考えてるようだけど、そうは問屋が卸さないからね。 ――だけど、厄介だね。 これであの坊やが、自分の気持ち≠ノ正直にでもなった日には……」 バックには、何やら黒い渦を背負いながら、カカシが一人、じっと、半分殺気の籠もった視線でサスケの事を見ている。 「――でも、そうは簡単に、サクラは渡さないからね」 そう言うと、さっと、その余りの視線の強さに気付いたサスケが振り向くよりも早く、その場からカカシは消え去った。 いったい、カカシの日記≠ノは、どんな事が書いてあったのか。 それは、カカシとサスケの二人のみが知る事で。 二人の、サクラを賭けた闘いは、今正に始まったばかりであったとさ……。 |