「ねえ、知ってる……アレ=H」
「え……?……ああ。アレ=Aね……」
「そう。……あの、
 『朽木ルキアが自分の副隊長を殺した』って話……」






好死は悪活に如かず





いつも、傍にいてやると約束したのに。
どんな時も、どんな事があっても。
俺は、あいつが一番辛い時に、一番苦しい時に。
あいつの傍に居てやると、そう誓ったはずなのに。
なのに、なのに俺は、あいつが一番辛い時に、哀しい時に、苦しい時に、傍に居てやる事が出来なかった。
あんなにも約束したのに。
俺もそれを望んでいたはずなのに。
なのに、俺は……あいつの傍に……










遠い遠い任務先から帰還した俺を出迎えたのは、愚かしくも浅ましい、ルキアの黒い噂だった。
それは、常日頃の欝憤や妬みや嫉みが多分に塗されており、悪意を以って俺の耳へと入って来た。それが耳に入って来た時、俺はよっぽど噂の出所をつき止めて、噂を流した張本人を殺してやろうかと思った程だった。だから、口さがなくそんな話をしてる奴等の首根っこを捕まえると、俺は、誰から聞いたのかと尋ね、そして、その事実無根な話を止めろと。もう、二度とするなと言った。
だが、奴らは下卑た笑みをその顔に浮かべると、『何を言ってるんだ』と『お前がどう思おうが、それは事実なんだよ!』と言って来たので、俺は躊躇わずに連中を半死にしてやった。
顔を涙や鼻水や血に塗れさせ、地面に薄汚く寝転がっている奴ら。
俺はそんな連中を冷たい目で見やると、十三番隊の詰め所へと向った。



――ルキアがんな事する訳ねぇだろ!?



心の中で何度も、そう叫びながら、足は自然にルキアの元へと向っていた。
今更、あいつの元へと行ったって、仕方の無いことぐらい重々承知だ。
だけど。否、だからこそ。俺はあいつに会いたいと思った。
だがそれは、ルキアが自分の上司を殺したかだなんて、んな単純明快な事実確認なんかの為じゃねぇ。
俺だって、遠方に居ながらも、十三番隊の副隊長が不慮の死を遂げたと言う事は、風の噂で聞いて知っていた。
そして、そいつがルキアの事を可愛がっていた事も。


ルキアが朽木家の養女となってから、俺達は互いに擦れ違いの日々を送っていた。その間に、ルキアは十三番隊に所属し、俺は五番隊へ。そして今ではその戦闘能力を買われ、十一番隊に所属し、前線で戦う忙しい日々を送っていた。
だけど、それでも俺は――否。そんなだからこそ、ルキアの近状をそれとなく聞きかじる事を忘れなかった。
だからこそ、十三番隊に所属してから、それなりにルキアが上手くやっていけていると言う事。隊長や例の副隊長からも可愛がられていると言う事を知っていた。
そして、俺はいつも、そんな十三番隊の隊長や副隊長に軽く嫉妬しながら、前線へと出掛けていた。









だから、俺はルキアの元へと一刻も早く駆けつけたかった。
きっと、ルキアは泣かなかったはずだ。
あいつは意地っ張りで強がりだから、人前では決して泣かないんだ。
そんなルキアを、いつしか俺はいつも黙って抱き締めてやり、あいつの傷が癒えるまでずっと傍にいてやるようになった。
そして、その時から気付けばルキアの泣き場所は、傷の癒え場所は、俺の腕の中となったんだ。
それは、とても嬉しくて誇らしい事で。
だからこそ、俺はルキアに早く会いたかった。
泣きたくても泣けないルキアの為に、今まで我慢していた涙の分だけ、心の傷が癒えるまで。俺はお前の傍に居て、それを全部受け止めてやるから……!
俺は逸る気持ちそのままに、ルキアの元へと向った。





それがどれだけ俺の傲慢な、独りよがりだったかを知らずに……。








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