『calling...』






ふと、独り河原を歩きながら見上げた夜空に、痩せた月がぶらりと引っ掛かっていた。それは、弱々しい光を放ちながらも尚、漆黒の帳
(とばり)に見捨てられないよう必死にしがみ付いているかの如くで。
「……っ」
途端、心に突き刺さる『何か』を感じ、ルキアは小さく頭
(かぶり)を振った。そして、ふっと自嘲気味に苦く笑うと、今一度、月を見上げ、そして。



「……恋次……」



気付けば、ぶっきらぼうで口は悪いが、その実凄く自分には優しい幼馴染みへと電話を掛けていた。













『……あ?何だ?……ルキアか?』
「……ああ」
繋がった瞬間、ホッとしたのも束の間。後ろから聞こえて来る賑やかな笑い声に、瞬時に言葉が凍りついた。
『何だ?如何した?』
「……」
わっはっはと、どっと沸きあがった歓声。恋次の周囲は常に笑い声が絶えない。それは十一番隊へと抜擢されてからも何ら変わりの無い事で、誰からも好かれる恋次。それに引き換え、常に妬みと嫉みに満ちた視線に曝され続け、誰にも相手にされず孤独で居るしか術を持たない自分。
『……あ?ルキア……!?』
周囲に沸き起こる騒音の為か、恋次の声が少し大きくなり、すまんが周りの声が大き過ぎて、お前の声が良く聴こえねぇんだと、訊いて来た。



「……」
だが、掛けて来た当の本人は、相変わらずの無言を貫き、何も語ろうとはしなかった。
『……ルキア……?何か、あったのか……?』
ふと感じた違和感にか、恋次が静かな声音でそう問い掛けた。
「……いや……別に、何も……何も、無いよ」
『何も……』と、最後は小さく己の中で呟くと、
「そう言う恋次!お前は相変わらず賑やかだな!」
また酒でも飲んでいるのか?そんな風で、ちゃんと仕事は出来ているのか?と、いつもの調子で畳み掛けるようにして、ルキアは言葉を継いだ。それは、ふと感じてしまった寂しさを、疎外感を誤魔化すかの如く。常以上に、努めて明るい声音で恋次へと話し掛けるルキア。
だが、そんな小手先の誤魔化しで、簡単に騙されるような恋次では勿論無く。



『……ルキア。お前、今何処に居んだ?』



何かを探るようにして喋る恋次に疑問を感じながらも、
「?河原、だが……?」
ルキアはそう答えた。
『解った。河原、だな。なら、そこを動くんじゃねぇぞ!』
「……は?……恋次……?」
何を急に言い出すのかと、慌てて訊き返そうとしたが既に遅く、無情にも携帯は、通話終了の音を奏でていた。













「……全く。急に何だと言うんだ……」



ルキアはポツリと呟くと、再び、月を見上げた。ぽっかりと、艶やかに光る漆黒の闇に引っ掛かった、三日月よりも細く細く痩せた月。少しでも気を許せば、唯一、共に在る事を許された闇からも見放されてしまいそうなそれに、思わずルキアは視線を逸らせた。
まるで、己の境遇に似ているかの如くな月に思わず居た堪れなくなって、その場を離れようとしたその瞬間。グイッと力強く引かれたその腕の先に、
「……だから……動くんじゃねぇって……言ってん、だ、ろ……」
ぜいぜいと、荒い息を吐きながらも、決して己の腕を離そうとしない、不機嫌な顔をした幼馴染みが立っていた。







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