この声が 聞こえるかい
今なら 聞こえるかい
どうか、苦しまないで……













「れん、じ……」
それは、少しの驚きと、小さな喜びが含まれた、声。
「どうして、ここに……?」
戸惑いを含みながらも、心の底では、確かに『何か』を期待していた。



「んあ〜!?んなの決まってんだろ!お前が俺を呼んだからだろうが!!」



「……は……?」





解っていた。恋次はこう言う奴なんだと。
いつも、いつも。自分が辛い時。哀しい時。落ち込んでしまった時。
何も言わずとも解ってくれて。そして、昔から傍に居てくれた。
そこに、言葉は要らない。
言葉など無くとも、伝わるものが、確かに在るから。













「……っ……」
不覚にも、ルキアは泣きそうになってしまった己に強く叱咤すると、気持ちを奮い立たせ、恋次に改めて向き直った。
涙が零れそうになったのは、そのような関係は既に終わってしまったとばかりに思っていたから。だから、こうして昔と変わらず、声を聴いただけで直ぐに駆けつけてくれた恋次に、遠く優しく懐かしい記憶が、頭上に煌く月と共に、ふと降り立ってきたかの如く幻を見てしまったから。



「……ルキア。何かあったんだろ?如何した!?何か……『家』ででも何かあったのか!?」
『心配』と言う二文字を大々的に顔に貼り付け、矢継ぎ早に問い掛けて来る恋次。
「……ふっ……。くくく……!」
そんな、必死な形相で居る恋次の顔を見ている内に、ルキアは急に可笑しくなり、笑い出してしまった。
「……はぁ?る、ルキア……?」
対する恋次は当然の如く、全く訳が解らない。
「ふ、ふふふ。恋次。
 ――お前は……変わらない、な……」


恐らく、先程まで十一番隊での飲み会などがあったであろうはずなのに、電話一本で自分の元へと駆けつけてくれた恋次。
友人達との集まりよりも、幼馴染みの自分を優先してくれた。それも、こちらが何も言わずとも。声だけを聴いて、己を探し当ててくれた……。



「何、言ってんだよ?」
「いや……」
それに比べて、自分は何と変わってしまったものだろうか。
「よくもまぁ、『河原』と言うだけで、私の居場所が解ったものだな、と思ってな」
朽木家の養女になり、『家族』と言う名の幸せを掴むはずが、そこに己の居場所などは端から無くて。待っていたのはただただ、冷たい眼差しばかり。
「んなの、当たり前だろ。
 ……お前の声さえ聴けば、お前が何処に居ようと、俺には解んだよ!」
少し、ぶっきらぼうに、照れ隠しになのかソッポを向きながら言う恋次。
いつも、いつも。身も凍る思いで日々を過ごしていた。周囲の視線を顔色を窺い。兄様のご機嫌を窺い。朽木家の――否。『兄様』の足手纏いにならない為だけに努め、こなす毎日。
なのに、それなのに。どうしてこの幼馴染みはこうも簡単に。



「それにな。ルキア、何年の付き合いだと思ってんだよ。
 ――解らねぇ訳、ねぇだろ!」



それは、様々な意味合いを含んだ、不器用な幼馴染みの精一杯な、自分を気遣った温かな言の葉。
「……恋次。お前と言う奴は……」
大した奴だよ。と、ルキアは小さく心の中でそっと呟いた。





はっきりと解る優しさなどでは決して無くて。だけど、でも、だからこそ。
その、不器用なまでの温かさが、気遣いが、自分を想ってくれる言の葉たちが、想いが、心に響き、染み渡る。





「何があったか知んねぇけど、辛くなったら、いい加減な所で吐き出しちまえよ。俺がいつでも付き合ってやるからさ。ずっと溜めとくと、碌な事になんねぇしな」
「うん……。解っているよ」
それは、痛い程に。
「で?……もう、大丈夫、なのかよ?」
「ああ。
 ……今日は、有り難う。恋次」
もう、手遅れな事だけど。それでも。
「お前がこうして来てくれて、楽になれたよ」
何も言わずとも、来てくれた。昔と変わらないその態度に。どれ程救われた事か。
だからこそ、するりと自然に素直に言えた、お礼の言葉。


「ふ、ふん……。どう致しまして!」
「ふふふ」
「おら!解決したなら、さっさと帰るぞ!こんな夜遅くにいつまでも外に居たんじゃ、お前の兄様も家の連中も、心配するだろうからな」
「……そう、だな……」
その恋次の言葉に、途端に心は凍り付いてしまったけれど。表には出さず、ルキアはとびっきりの笑顔を浮かべて見せると、
「では、今度このお礼に奢ってやるから、久し振りに餡蜜でも食べに行かぬか?」





今だけは、笑って居させて。
何もかも忘れて。





「お、おま、ルキア!えっらそうに、『奢ってやる』だと〜!?」
「む?ならば、恋次が奢ってくれるか?私はそちらの方が嬉しいのだがな〜」
「こ、こら!お前が言い出した事なんだから、ルキア。お前が奢れ!
 だけど、そうだな……なら、来週なんてどうだ?」
「来週、だな?解った」
ルキアの笑顔に見惚れながらも、恋次は嬉しそうに約束を取り付けてくれた。














きみといるとき ぼくはぼくになれる
そういう気がする
言葉よりはやく わかりあえる 輝く瞬間あざやかに
いままでもこれからも
約束などすることはないだろう
だれにも真似できない 同じ夢を見よう
Can you here the calling?





きみがいるなら 戻ってこよう いつでもこの場所に
けがれなき想いが ぼくらを呼んでいる
I can here the calling














二人、仲良く笑いながら家路へと着く。
来週の予定を、実に嬉しそうに考えながら。
その後ろでははぐれた月が静かにそっと寄り添うにようにして、ルキアの後をつけている事も知らずに……。









挿入歌詞/『calling』 byB'z











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