『第2話:放課後の乙女座恋次』





「へ〜。なら、恋次とはずっと、施設で一緒やったんや」
「ああ。私が今の家へと引き取られるまでは、共に過ごしていた」
「そいで、別れ別れになってからは、文通で連絡を取り合っていたと?」
その俺の問いに、ルキアちゃんはこっくりと、可愛らしく頷きはった。
あれからあっという間に時間は過ぎて、今は放課後。
もじもじしていた、乙女座な恋次クンとは正反対に、ルキアちゃんは恋次に目を留めるなり、大声で恋次の名を呼んだりしてくれたもんやから……暫く二人の関係を説明するのんに多大な時間を費やしたんは、言うまでもあらへんかった。
で。
始業式が過ぎて数日が経った今日。
流石に全ての部活も始まって、威勢の良い声がそこかしこに響き渡っとる中、俺と恋次とルキアちゃんの三人は、屋上でのんびりまったりと日向ぼっこをしながら、楽しくお喋りをしとった。





◆◇◆◇◆◇◆






「しかし、恋次も大概だと思っていたが、廉十朗もそれに負けず劣らず、物凄い苗字だな」
「あははは。確かにルキアちゃん、それは認めるわ。
 『喜連瓜破』なんて無駄に長い名前やから、試験の時とかむっちゃ腹立つもん」
一通り、改めてお互いの自己紹介を終えた後、俺は自分を呼ぶ時は、あんなけったいな苗字やのーて、気にせず下の名前で呼んで欲しいと頼んだら、それならばと、彼女の方からも名前で呼ぶように言われ返され、今ではこの通り、フレンドリーな俺たち。
「ああ、それは俺も思う」
そんな俺らに、少し嫉妬でも感じてるんか、不機嫌な顔をしながら恋次も会話に参入してきよった。





――ほんま、おもろいな、こいつは。





「なんやねん、恋次。お前はまだええやんか!氏名合わせても五文字やねんし。
 俺なんてなー!合わせると、七文字もあるんやで!どないに長い名前やっちゅーねん!!!」
「……そうか?たかが二文字で、そんなにも……」
「『たかが二文字』やと!?恋次!お前はその二文字を舐めとる!甘くみとる!!舐め切っとる!!!
 されど二文字なんやぞ!?その二文字の差で、掛かって来るロスタイムもかんなり違って来んねんて!!!」
何も知らへん失礼な恋次に、俺が畳み掛けるようにして二文字の歴然とした差を、拳を握って力説したってると、
「ははははは!廉十朗は、本当に聞いていた通りに面白い人だな」
実に楽しげに、ルキアちゃんが俺の事を、そう評してくれはった。





「へ〜え。俺の話をね〜」
その言葉に、俺が意地悪く恋次を小突けば、
「う、うっせーなっ!!!」
照れ隠しなんが見え見えな態度で、恋次が生意気にもぶっきらぼうに怒鳴り返してきよった。
やから。
「ルキアちゃん、文通ってさ。普段どんな内容書いてるん?」





――俺にそないな態度を取ればどないなるか、まだよく解っていないようやね、恋次クン?





「む?別に、これと言って、特別な事は書いてはいないが……?」
「へ〜え。そうなんや。やけど、恋次の方は……」
「そ、そう言や廉十朗!お前、今日部活は良いのかよ?」
と、不意に恋次が焦りながらそう訊いて来た。





俺が何を言おうとしとったんか、瞬時に感付きよったか、恋次のヤツめ。
へ〜え!なかなか進歩して来たやないか。
「ん?ああ。まだ構へんやろ。生徒会の方に顔出して来るって、先に言っといたし」
俺はさらりとそう応えると、ニヤニヤと笑いながら、妙な汗を流しとる恋次の様子を、これ見よがしにと観察したった。





バイトに忙しーて、部活には入ってへん恋次とは違って、俺は剣道部に所属しとるし、プラス何でか生徒会入りまでしとる始末。
まァ、それを良い事に、時たまこうして両者ともそれぞれをサボりの口実に使わせてもろてるんやけど。これも一重に特権と言うもんやからええねん。
あ?やけど、そう言えば、確か前、生徒会で……それに、ルキアちゃんって、ひょっとして……?





「そう言やさ、ひょっとしてルキアちゃん。朽木って、あの『朽木さん』?」
「は?廉十朗、お前急に何言ってんだ……?」
俺が言った意味が理解出来へん恋次が疑問の声を、案の定上げよった。
まァ、生徒会に所属してへんからそれもしょうがないねんけど。だって、これはまだ公にはなってへん事やし。
やけど、ルキアちゃんにはそれで十分やったらしくて、
「……ああ、恐らく、廉十朗が指している『朽木』に相違無いだろう」
「そうなんや。ほな、ルキアちゃんが、例の……」
どこか厳粛な表情をしながら、俺の言葉にコクンと一つ、可愛く頷きはった。





◆◇◆◇◆◇◆






「???二人とも、いったい何言ってんだ?」
一人、蚊帳の外な恋次が、例の変眉を寄せて俺たちを交互に見た。
「あ〜……。やから、何て言うのんか……」
この、一人会話に付いて来れてへん、可哀想な幼馴染みの恋次クンに、どうやって説明したろか。
絶対、恋次の事やから、ルキアちゃんと同じクラスになれただけでも、真夏の道頓堀に飛び込めるぐらいに喜んでるはずやねんて。
……普段でもアレな臭いと汚泥に満ち満ちた道頓堀や。真夏ともなると、更に腐臭が漂っとる。はっきり言って、臭い。とてつもなく臭いし色がえげつない。
そんな場所でもこれからのバラ色スクールライフを想像するだけで、気にせずこいつは絶対飛び込む思うねんな。
そんな乙女座な恋次クンに、今から告げる事柄は、酷な事やろうな〜と思いながらも、





「――実は、今度新しく理事に就きはった朽木さんて、ルキアちゃんのお義兄さんやねんやんか♪」





『他人の不幸は密の味』。
『渡る世間は鬼ばかり』。
『金の切れ目が縁の切れ目』……は、俺の勝手な標語か。
まァ、んなのどうだってええねん。取り敢えず、面白ければ何でもええねんやしとばかりに、俺は満面の笑みで目の前の親友に、更なるとどめを刺したった。





「更にな、朽木さんて、理事長だけやのうて、兼任でPTAの会長さんもしてはるらしいねんやんか♪」





そう告げられた時の恋次の顔を、皆に見せてやりたかったわ!
この世の終わりかとばかりに一気に顔面を真っ青に染め抜いたかと思たら、次は不気味に引き攣り笑いを浮かべよるし。
あれやろな。
想い描いとった、これからのバラ色青春スクールライフが、走馬灯のように過ぎっては泡と消えて行ったんやろか。
まァ、そうやな。理事長だけやのーて、PTAのしかも会長まで兼任しとるようなんが義兄さんやったら、色々と監視の目なんかも厳しいやろうし、口喧しいやろし、お付き合いでもしようもんなら……想像に難くないわな。





「ま、そう気ィ落とさんで。頑張りィや!」
「おっ……前な〜っ!!!また、他人事だと思って楽しんでんだろっ!!!」
「あ。バレタ〜?」
「?如何したのだ?二人とも??」





涙目になって俺をねめつけて来る恋次に、訳が解らないと言った風なルキアちゃん。
「あははは。何でも無いねん。こっちの話。
 それよか、そろそろ帰ろか。ルキアちゃんさえ良かったら、ついでにどっか寄って帰らへん?まだまだ色々と話も聞きたいし」
「それならば、喜んで。私も色々とこの学校の話なども聞きたいしな」
「ほな、行こか。
 確かルキアちゃんて、大の甘味好きやったやんな?良いとこ俺知ってんねんやん」
「!それは是非とも!!」
『甘味』の一言に、嬉しそうに目を輝かせたルキアちゃん。余程好きなんやな。





「……くっそーーっ!!!!!!!! 俺がいったい!何をしたってんだーーっ!!!!!!!!」





「……恋次?」
「アホは放っといて。俺らだけで行っとこ」
「あ、ああ」
後ろで遠吠えを始めた恋次には構わずに、俺はルキアちゃんと屋上を後にした。
流石にルキアちゃんは恋次の事を気にしとったけど、恋次なら店知ってるから大丈夫やと安心さして、一足先に目的の店へと俺たちは向った。





◆◇◆◇◆◇◆






そうか〜。ルキアちゃんが、例の理事長さんの義妹さんやったんや。
確か始業式始まって、最初の生徒会で言われたんやったわ。
今度、新しい理事長さんが来はるって。
しかも、PTAの会長を兼任しとって、それだけやのーて……。
おもろい事は小出しにしていかなと思っとったし、あの場にはルキアちゃんも居はったから、敢えて言わへんかったんやけど……今度の理事長さんって、どうやら大の『シスコン』で有名らしいんよな。
やから、俺たちにも厳重に注意するように、何て言う、妙ちきりんな指令が下って、俺はアホかと思ったの覚えてるわ。
しっかし。
何はともあれ、頑張りィや、恋次!
俺はお前の親友として、大いに楽しませてもらうさかい♪
どうぞ、お気張りやす〜v










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