『第3話:ドキドキお家でお勉強!?』





「いや〜vv可愛い子やわ〜vv」
「っ!?」
「ちょっと、廉十朗!こない可愛い子連れて来るんやったら、先に言っといてくれなあかんやんか!
 しかも、れんちゃんまでやなんて〜v」
「う゛……。だ、だから、その呼び方は止めてくれって……」
「『れんちゃん』……?」
「あははははははは」





今、俺ら――俺と恋次とルキアちゃん――の三人は、『お勉強会』をすべく俺の家へと帰って来た所なんやけど。
可愛いもんには目が無いおかんに、案の定ルキアちゃんが捕まってしもて、可哀想に。目を白黒してその洗礼を受けてはるわ。
しかも、何を気に入ったんか知らんけど。おかんは恋次が大のお気に入りで、勝手にあのごつい男に『れんちゃんv』なんぞと渾名を付けては……きっと、からかいの対象にされとんのやろな。ご愁傷様。
本人は、『あれは愛情の裏返しなんよ!』なんて言い訳しとるけど。結局の所は色々と遊んで楽しんでたりしてるし。
ま、その気持ちも解らへんでも無い俺も、やっぱり血は争えないんやけどさ。





――で。





そもそも、何でこないに俺ん家で勉強会なんぞをやらなあかんくなったか言
(ゆ)うと言いますとやね。
話せば、それはそれはもう、語るも涙。聴くも涙。海よりも深く山よりもたか〜い訳がありまして……なんて事は勿論のうて。
単に恋次の野郎が、ここ最近、某バイトが忙し過ぎて中々勉強出来ひんで、今度ある実力テストがちょいっとやばそうやから、それのフォローの為に急遽開催されたと言う、至極単純明快。海なんて干潟ぐらい浅くて山なんかは天保山よりも更にひく〜い、俺にとってはむっちゃ傍迷惑な理由からやってんやんか。
確かに、前あった中間テストもかつかつやったしな。
そんで当初は、なら恋次の家でやろかと言う風になっとったんやけど。なんやルキアちゃんも話の流れ上一緒に勉強するようになってもーて。
そないやったら、あの狭い部屋に三人はキツイやろと俺が言ったら、恋次の奴は『そんなに狭くなんかねぇ!』って、勝手に怒ってたんやけど。
でもな〜。女の子が三人とかとちゃうねんで?男が二人。しかも、一人は優に180以上はあるむさ苦しいだけの大男やし。
――は?俺はどないやねんて?そんなん決まってるやん!俺はお前程、むさ苦しい事無いし、ただ大きいだけとちゃうわ!何て言ったったら、また恋次は好き勝手に独りで喚いとったけど、そんなん完全無視や。
それにな、恋次は知らへん事やど、お前はルキアちゃんと幼馴染みやって、しかもルキアちゃんが唯一心を許してる相手や言う点で、既に理事長から目を付けられとんのやで。阿呆が。そないな男の部屋で……まぁ、俺も一緒に居
(お)るとしてもや。あのシスコン上等!理事長が許す訳があらへんやんかいな。
てな訳で、勉強会は俺の家でやるんやと、俺が強引に決めたんけど……。





◆◇◆◇◆◇◆






「……何でやねん?俺はな恋次。お前の為に良かれと思ってやったった言うのんに、何でそないに文句を言われなあかんねん?」
理不尽な文句を言ってきよる恋次に、俺は当然の抗議をしたったら。
「……廉十朗。お前のお袋さんが、ふつーのお袋さんだったら、俺も別に文句なんて言わねーよ!」
「?別に、至って普通のおかんやと思うけど?」
至極、訳の解らん返答が返された。
何でやねん?あれで普通やろ?おかんと言うもんは??
大阪のお母ちゃんは、大抵あんなんやと思うねんけど……違うんやろかいな??
「あれのどこが……っ!!!」
「あら?嫌やわ〜!れんちゃん、何やうちの話でもしてくれてんのん?」
「……(滝汗)」
俺の素朴な疑問に、恋次が声を大にして抗議をしようとした時、正にグッドタイミング的におかんが何がそんなにも嬉しいんやろ?妙に浮かれて俺の部屋に入って来よった。





「おかん。何度言うたら解るん?入る時はノックぐらいしてや」
「ま!何をこの子はいっちょ前な事を言うてんのやろ。そんなん別に、お母さんとあんたの仲やねんから、必要無い事やん!」
「せやけどな〜。恋次が来てる時くらいは、俺は良いとしても、恋次の心構えの為に、これからノックしたってや」
「ん〜。難しい話やけど。ま、それなりに努力してみるわ」
「……おおきに」
俺とおかんの変わりばえの無い会話の後、
「所でルキアちゃ〜んvケーキ買
(こ)うて来たんやけど、何がええ?」
……おかん、語尾に思いっ切り、ハートマークが散乱しとんで。
「え……あ、は、はい」
「嫌やわ〜!そないに緊張せんでも!
 ほら。ぎょうさん買うて来てんけど、どれがええ?」
おかんの勢いに、未だ未だ初心者なルキアちゃんは押され気味……いや、あれは完璧に押されとんな。我ながら可哀想に。
「あ……。じゃ、じゃぁ。これを……」
「ショートケーキやね。どうぞ。
 れんちゃんはどれがええ?」
「……だから、その呼び名は止めてくれって……」
「……『れんちゃん』?
 ――何や、文句でもあんのん?」
「っ!!め、滅相も御座いませんですはいッ!!!」
無駄な抵抗を試みた恋次やったけど、案の定、逆におかんの有無を言わせん迫力にびびりよって、涙目にさえなってるわ。
恋次も阿呆やな〜。あのおかんに、お前が敵うなんて可能性は、一縷も無いんは既に承知の上やろうが。
「解れば宜しいvさ、どれ?」
「……これでお願いします……」
そんで、笑顔の脅迫に、恋次が縮こまりながら指指して決めよった。
「チョコレートケーキやね。どうぞ。廉十朗は?」
「俺は、なら……これを」
「はい。 それと、三人とも紅茶もどうぞ♪」
「「有り難う御座います」」
「じゃ。お勉強、頑張ってねv」





そう言うと、もっとルキアちゃんとお話したいんやけど、お勉強の邪魔になったらあかんしね。残念やわ〜と言いながら出て行ったおかんの後姿を、恋次はじっと無言で見届けた後、完全にその気配が消えるや否や、深くふか〜く、心の底から安堵の溜息を吐いたんは言うまでも無かった。





◆◇◆◇◆◇◆






「廉十朗のお母さんは、面白い人だな」
「……ぶっ!」
「うわっ!汚いな恋次!いきなり何吹いとんねん!!」
「す、すまねぇ。でもよ、ルキア!お前本気か!?
 こいつのお袋さんが面白いって……!!」
「?ああ。だって……流石に、最初は驚きもしたが、でも。とても素敵な人ではないか!」
何故か瞳をキラキラさせてうちのおかんを褒めてくれはったルキアちゃんのその言葉に、今度は盛大に机へと頭をぶつけそうになった恋次を、俺は素早く横から突き飛ばしたった。
「いってーな!廉十朗!お前、何すんだよ!!」
「何って、机の上のモンを、お前から守ったまでやん」
「な……っ!」
当たり前やん!お前の盛大なツッコミのせいで、折角のケーキや紅茶が被害を被るやなんて、もっての他やし。
俺よりも、そんなにも食いもんの方が大事かよと呟いている恋次をさっさと無視して、
「そうなんや。なら、後でルキアちゃんがそう言ってたって、おかんに伝えとくわ。きっと、いや、絶対、むっちゃ喜ぶで〜!」
俺がそう応えると、ルキアちゃんも嬉しそうに笑ってくれはった。
ほんま、やっぱり良い子やな〜。恋次には勿体無いで!





「そう言えば、恋次は『れんちゃん』と呼ばれているのだな」
「そうやねん。こないな大男が『れんちゃん』やなんて、普通は気色悪いだけやねんけど、でも恋次の場合は意外にミスマッチやと思わへん?」
「確かに。言い得て妙だな」
恋次の事は無視して、会話の弾む俺とルキアちゃん。
けど。
「やろ〜!やから、俺もこれから同じように『れんちゃん』て呼ぼかな〜て、前に言ったら……」
「だから!それは止めろ!!!!」
「――てな?怒鳴られてんやんか」
間髪居れずに、まるで息合わせも要らん漫才コンビな如くな、高速ツッコミを入れて下さる恋次クン。
「何故だ、恋次?……似合って、いるぞ……?」
「……ルキア、お前な。笑いながら言うな」
「く……!だ、だって、れ、れんちゃんって……!!
 恋次がれんちゃんって!あ、はははは……!」
「………………」





珍しく、余程ツボにでも入ったんか、腹を押さえて笑うルキアちゃんに、それを仏頂面で見ながらも、しかしそこはかとなく嬉しそうな気色の悪い恋次クン。
俺はそんな、ほのぼのなお二人さんを肴に、一人せっせとケーキを攻略しながら参考書に目を走らせてましたっと。
だって、当初の目的は勉強会やねんし。
やけどな恋次。
勝手に独りの世界に入るんはええけどな。お前肝心な事を忘れてるから。
あのおかんの事や。絶対!どこかで聞き耳立ててんで。
……ま。俺には関係の無い事なんやけど。ざまァ見やがれ。










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