『第1話:転入生は、噂のあの子!』 「おはよ〜さん!今日も相変わらず、朝から変眉やな〜!」 「お前は!朝っぱらから、一言余計なんだよ!」 「あはははは。いつもの事やん、気にしてたらあかんて!」 「あのな〜!!」 横で、朝っぱらから不景気極まりない顔をしている男を軽くおちょくると、俺は下駄箱の蓋を開けて、靴を履き替えた。 それに続くようにして、変眉男も靴を履き替える。 何や、ぶつくさとまだしつこく文句を言ってるようなんを、俺は特に気にしんと、自分たちの教室へと向った。 ――と。 はろー!えぶりば〜でぃ〜! 肝心の、主人公である俺の紹介が遅れても〜て堪忍な! 俺の名前は、喜連瓜破 廉十朗(きれうりわり れんじゅうろう)。 まだまだ、ピッチピチの現役高校生で、高一の春に東京へと転校して来たばっかやねんやん。 きっと皆さん、何で俺なんかが主役を張ってるんやろと思われてはる事やろうけども。ま、そこは堪忍したってやと言う事で、一つ宜しゅうお頼み申しまっさ! ――で。 同じく教室へと向ってんのんが、言わずと知れた変眉大王。阿散井 恋次! こいつとは入学早々、俺が奴の名を間違(まちご)うて読んでもーた事から腐れ縁が始まってもーたらしくて、今年で二年連続同じクラス記録更新中や。 て言うか、あいつの名前も悪かった思うねんな。俺は。うん。 あいつの名前を始めて見た時は、珍しい氏名同士、お仲間が出来た!と思っとったんやけど。 あの紛らわしい名前はどないかせーちゅーねん! あのややこい名前のせいで、俺はあいつの名前を始めて呼んだ時、間違えて『あさんい へんじ』て呼んでもーたがな。 苗字は仕方ないにしても、名前の漢字を見間違えてもーて、『へんじ』て……。 しかも、それがえらい大声でやったから、かんなり恋次に怒られてもーてな〜。『こいじ』て間違う奴は今までおったけど、『へんじ』はそうそうおらへんかったって言われたわ――余計なお世話じゃい。 やけどそれ以来、恋次とは何かと縁が出来るようになって、今では何でか親友なんぞにまでなってもーてるんやけど……何でなんやろ?大いに不思議や。 ……まぁ。細かい過去設定話なんぞは横へと置いとくとして。 俺は机に自分の荷物を置くと、 「なぁ、何で自分。そんなにも朝っぱらから、そわそわしてるん?」 ずっと気になってた事を訊いてみた。 だってこいつ、不景気な顔をしながらも、視線があっちゃこっちゃ泳いだりして、時々めっちゃ不審人物さんやねんもん。 ……あ?いや、待てよ……ひょっとして……。 「あれかいな?ひょっとしんでも、今日なん?愛しの幼馴染みちゃんが転入して来るんわ?」 確か、前に聞いた事があるわ。 何でも恋次の幼馴染みで、かなりのミニマムなんやけど、態度は富士山よりも高くて、でもそれは不器用なだけであって、本当は心の優しくて綺麗な子やて……それはもう、メロメロな表情で惚気てくれたんやけど。 「そうか。今日なんや……」 「い、いや!だから!俺はまだ何も言ってねーだろうが!」 「何言うてんねん。お前のその態度だけで、応えは十分やがな!」 「……う……(汗)」 「しっかし……ほうかい。ほうかい。 ……なら、今日のHRがめちゃめちゃ楽しみやな〜♪」 俺がそう、意地悪げに突付いたると、恋次の奴は実に器用に、その顔を青くしたり赤くしたりしては、嬉しいのに不安も一杯vなんて言う、おんどれは何時の時代の少女漫画を地で行っとんのや!と思わず裏拳ツッコミをしたなるような態度を見せてくれやがった。 「……ぐっ! ゲホッゲホッ!! 廉十朗、てめ〜な〜!!!」 あ、あかん。思っとったら、ほんまにツッコンでもーたわ。ま、しゃーない。恋次が全部悪いねんやし。 「……前に手紙の返事で、ひょっとしたら、俺と同じクラスになるかもしれねぇって書いてあったからよ……それで、だな……」 ――誰か俺を助けてくれ! こんな180cm以上もある大男が――しかも、ガタイも面構えも宜しくきとる大男が、やで!?小さい席に座ってもじもじしとる姿やなんて……誰が拝みたいかっちゅーねんっ!!! しかも、恋次が今言っとった、『手紙の返事』と言うヤツ。どこまでこいつら古風やねんと。何時の時代の申し子やと言いたなるねんけど、その言葉のまんま、『文通』を指しとんのやから凄いわな。 あれやん。昔、英語の授業でやった、『ペンフレンド』よ。『ペンパル』とも言うんやったっけ?あれやねんて。 今時、『文通』やで!?どれだけこいつらの仲が清いか解るもんやてな。 で、その愛しの幼馴染みちゃんが、どうやら今日転入して来るらしいんやけど。 「このクラスやったらええのんにな、『こいじクン』!」 時たま呼ぶ、からかう時の呼び名を呼んでやると、 「うっせー!お前は黙っとけ!!」 案の定、恋次は怒鳴って返してきよった。恋次のくせに、生意気な! ◆◇◆◇◆◇◆ そうこうしてる内にチャイムが鳴って、担任の浮竹先生が、例の転校生を連れて教室へと入って来はった。 その瞬間、上がったどよめきに俺はニヤリと恋次の方を見てやると、面白ろい事に、あいつは微妙な顔をして、転入生を凝視してたわ。 何か、大声で今にもその名を呼びたいのんに呼べへん言うような。嬉しさで笑いたいのに笑えへん言うような。それはそれは見事に相反した感情を、その解り易い顔に上らしたまんま、その転入生が自己紹介を終えるまで、視線はずっと釘付けのままやった。 確かに、恋次の言うように綺麗な面立ちをしとる娘さんや。 名前は朽木 ルキアて言うんやね。 HRが終ってから、転入生の洗礼とも言うべき質問攻めをされている朽木さんを、俺達は遠巻きに眺め遣りながら、俺は同じく隣の窓辺でそわそわしてていい加減鬱陶しい恋次に、『恋次は行かんでええのん?積もる話も色々とあるんとちゃうん?』と尋ねてやった。 「あ、ああ。 ……ま、後でもいいしな……」 すると、見事案の定な返事を返してくれる、恋する乙女な阿散井恋次クン。17歳。身長188cm。 そんな親友の気色の悪い姿を冷やかに眺めながらも、しかし俺はこれからどうなるんやろと、内心では密かにほくそ笑んどった。 そう言えば言い忘れとったけど、恋次には隣のクラスにライバルがおったんやったわ。 何をするにも犬猿の仲のような二人やねんけど……何が因果かおもろい事に、そいつとも俺はお友達やったりするからね。 しかも仲悪いくせに、この二人、好みが悉く被っとるときてるから……これはおもろい。 一波乱起こりそうや。 俺は鬱陶しい隣の親友を、このまま窓から突き落としたろかと半ば実行に移しながら、 今後の展開をそれなりに想像しては、やけに煩い悲鳴を上げてる恋次を極力無視して、内心笑っとったのは言うまでも無かった。 |