「あ!隊長! これ、今度支給された伝令用携帯なんですが……」 「……何だ?それは……?」 「え?ああ、え〜と、俺達部下なんかとの連絡を密に取る為に、或いは、隊長間やらの伝令事項等の伝達の為にと、涅隊長が開発を務められたそうなんですが、あの人もまた色々と創るの好きですよね」 「……そうだな……」 「で、ですね。使い方は……て、解りますか?……隊長??」 新たに支給された伝令用携帯。 最初こそはその用途に戸惑う者もあったが、そこはそれ、皆伊達に歳をくってはいない為か、幸い大多数の者が順応性に長けており、直ぐにその新たな支給品にも慣れ出し、便利に使い出した。 ――そう、約一名を除いて……。 携帯音痴 ―其の壱― 「だ〜っ!もう!! だから〜!隊長っ!!どうしてそうなるんですか〜〜!!!!!」 そして、ここにその希代な……携帯の使えないと言うよりは、機械全般に到っては全く駄目と言う、筋金入りの機械音痴を隊長に持った不運な副隊長が一人。 六番隊副隊長、阿散井恋次は先程から己の上司である、六番隊隊長、朽木白哉に携帯の使い方を伝授しようと、四苦八苦してはいっかな要領を得ない白哉に、時に額の青筋が何本か切れそうになったりしては、それを堪えるのに必死になっていた。 「……む?このボタンを、押して……?」 「ちがっ!!だからそれは電源であって、それを押し続けると消えてしまうんですってばっ!!」 ――あ〜もう、ちきしょーっ!誰か俺の代わりにこの人に教えてやってくれーーっ!!! 恋次の心の嘆きが、空虚に木霊してはその横顔に哀愁を漂わす。 「隊長!ルキアはさっさとこれの使い方、覚えてしまいましたよ!?あいつにしては珍しくっ!」 「……そうか。流石、私の義妹……」 ぽつりと、そこはかとなく誇らしげに応じる白哉に、恋次はぼそりと、 「でもその理由が、浮竹隊長の為、だったんすがね。 あそこの隊も大変すよね。ああもしょっちゅう隊長が喀血で倒れたり、軽く心拍停止になってみたりしてたら……」 故意に『浮竹隊長の為』と言う部分を強調して言った。 すると、案の定と言うべきか。後に続く恋次の言葉などには一切耳を貸さず、 「……兄の為に、だと……」 わなわなと嫉妬に震え出す白哉。その変化は微々たるものであったのだが、長年の経験のおかげか、恋次にはつぶさに白哉の変化を読み取れる術が哀しいかな、いつの間にか身に付いていた。 その為か、もはや日常と化してしまった恋次にとって、これと言って特に気にする事も無し、軽くスルーしてしまうと、 「で、ですね、隊長! 取り敢えず、ここに短縮だけ入ってますから、それだけでも覚えて置いて下さいね!」 さっさと何度目かになる解説を初め出した。 「……『たんしゅく』……?」 「ああ、もういいですから! え〜とですね、この『一』って言う番号を選択すると……」 と、既にインプットされている短縮ボタンを恋次が押してみると、軽い電子音が身近に鳴り響き、恋次の携帯が震え出した。 「あ、なんだ。副隊長のちゃんと入ってるんすね。 なら、これは……」 次に『二』を押してみると、暫くの呼び出し音の後に聞こえてきたのは、 「んあ?ルキア〜!?」 『……何だ?恋次か?何故にお前から掛かってきたのだ?』 「い、いや。これは俺のじゃなくて、隊長のでな」 『む?兄さまの?』 「ああ、今、隊長に携帯の使い方を教えてたんだけど、そこの短縮二にお前の番号が入ってたんだよ。あ、ついでだから、お前もこの番号、後で登録しとけよ」 『そうだな、解った。 しかしそうであったのか……それで兄さまはちゃんと理解されたのであろうか? お前の粗雑な説明の仕方では、兄さまもさぞかしご理解に苦しまれているであろうな……』 「……いや……ご理解に苦しんでるのは、隊長でなくて俺の方だよ……」 『?恋次?何か言ったか?声が小さ過ぎて聞こえなかったが……?』 「いや、お前には関係の無い事だ。 ……え?あ、はい……解りました……訊けばいいんすね……」 『恋次?』 「あ〜なんだ、所でルキア。お前、今何処にいんだ?てか、何か用事でもあるのか?」 『む?私か?』 「ああ、ちょっと今空いてんなら、こっち来て一緒に隊長にこいつの使い方を教えるの手伝ってくれねえかな〜なんて思ってな」 『それならすまぬ。 つい先程、また浮竹隊長が軽く喀血なされてな。それの付き添い看護を今しておる最中なのだよ』 「『軽くって』お前……またなのかよ?」 『そうなのだよ。浮竹隊長も、もう少しご自分の体調の事を鑑みられて欲しいものなのだが……』 「……だそうですよ、たいちょ……」 『何だ?兄さまが何か言われているのか?』 「ん?あ、ああ。何でもねえ。こっちの話だ。 ならルキア……お前も頑張れよ!じゃーなっ!」 『……ああ、解った。ではな』 ・ ・ ・ 「だそうですが、隊長?……隊長〜?」 「――恋次。私も少し眩暈がするので、暫し救護室へと行って来る」 「いやいやいやいや全然平気そうだし。隊長、いたって元気そうにしか見えないし!」 「……恋次――止めるな」 「うわっ!? とか言って、斬魄刀急に抜かないで下さいって隊長っ!!危ないじゃないですかっ!!」 「……チッ……」 「ちょ、ちょっと隊長!?今密かに舌打ちしなかったっすか!?」 「……気のせいであろう。 所で……この三と言うのは、何なのだ?」 「……え?あ、ああ。短縮三ね。……何か普通に話を横流しにされた気もないっすが……」 「気のせいだ」 「……え、え〜と?この、『三』っすね。確かに、他に何の番号が入ってんだろ??」 言われ、首を傾げながら恋次は『三』を選択してみた。副隊長である己が言うのもなんであるが、はっきり言って、恋次とルキア以外にはこれと言って知り合いも居ない白哉である。そんな白哉の携帯に、内蔵されている他の番号と言えば……。 「……可能性としては、浮竹隊長くらい、なんだけどな……」 白哉の義妹であるルキアが所属する十三番隊隊長、浮竹十四郎。ルキアに何かあった時の為に、彼の番号が内蔵されていると考えるのが、この場合は妥当であろう。 だが、そこに実際にインプットされていたのは……。 『……はい?誰です……』 ――ブチッ!!!!!! 速攻で電源を切る恋次。 「……恋次?いったい、誰であったのだ?」 「……滅茶苦茶、趣味の悪い人でしたよ……」 そう言って、無言で携帯を白哉へと渡す。白哉はそれを受け取り、たどたどしい動きながらも、どうにか恋次に教わった通りに、短縮ダイヤルを掛けてみた。 すると――。 『はい?』 ――ブチッ。ツーッツーッツーッ………… 先程よりも早い速度で切られる通話。 「……これって、嫌がらせ、なんでしょうかね?」 「…………」 恋次は携帯を無言で見つめる白哉の向かいで、独り重い沈黙に耐えていた。 ・ ・ ・ その頃、電話が掛かって来ては速攻で切られた相手はと言えば。 「……なぁ、イヅル。 今度は、『はい』しか言わん内に切られてもーてんけど、いったい誰やったんやろか?」 「さぁ?ひょっとしたら隊長、嫌われてるんじゃないですか?」 続けて、『きっと、日頃の行いが悪いんでしょうね』と素っ気無くイヅルは応える。そして、 「そんな事よりも、ほら市丸隊長っ!!さっさとこの書類、今度こそ!片付けて下さいねっ!?」 山と積まれた書類を指差しては中々重い腰を上げない上司にやきもきしていた。 「まぁまぁ、そう怒らんと。それよりもこの番号、リダイヤルしたら誰か解らんかな〜」 「だからそんな事よりも、まず!これが先ですっ!!!!」 イヅルはそう言うと、ギンから携帯を取り上げ、代わりに書類を渡し、 「今日はこれが済むまで、ここから出てはいけませんからねっ!」 梃子でもここを動かないぞとばかりに戸口に陣取った。 しかし、その怒鳴り声に耳を塞ぎながらも、ギンが内心で舌を出していたのは言うまでもなかった。 ・ ・ ・ そしてその後。 ギンがその番号をリダイヤルする頃には、白哉から文句を言われた恋次によって、短縮『三』は既に抹消され、迷惑番号へと登録されていたのであった。 また余談であるが、これから後、『メール』を覚えた白哉が事ある毎にルキアへとメールを送るようになるのだが……それはまた、次のお話。 |
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