「……ふふ。 相変わらずだな、恋次……」
更に灯った瞳の揺らめきに、俺はにやりと笑ってやる。
「へっ!それくらい、知ってただろ?」
そうだ、ルキア。昔のお前を取り戻せ!
「ああ。 そうであったな……」
口元に、微かな笑みを浮かべてルキアは応えた。
「そうだな……約束しよう。 恋次。お前が生きている限り……私も死なぬと」
「よし!なら、もう泣くな」
「?何を言うか。 私は泣いてなどいないぞ……?」
ば〜か。お前の心が泣いてんだよ。
不思議がるルキアを他所に、俺はもう一度、今度は優しくルキアを抱き締めた。
細い、細いルキアの身体。
ちょっと力を加えるだけで、容易く折れてしまいそうだ。
そして、ルキアの頭をくしゃりと掻き混ぜると、そっとその身体を離した。
いつまでも抱いていると、離す事が出来なくなってしまうから。
「さ〜てと。……俺はそろそろ、帰るとするかな」
「……そうか……」
「……ああ」
名残惜し気な空気が俺達を包み込む。
寂しげなルキアの顔に、俺は再び抱き締めてやりたい衝動に駆られたが、そんな事をすればどつぼに嵌るだけだろうからとぐっと堪え、もう一度、今度は乱暴にルキアの髪を掻き混ぜてやった。


「わ……っ! や、止めろ!こらっ!!恋次……っ!?」
それに嫌がりながらも、でも、俺の自惚れなどでなければ、どこか嬉しそうに、抗議の声を上げていたルキアの表情が、突如として驚愕へと変わった。
その青褪めた表情に振り返る間も無く、鋭い、射るような視線が背中に突き刺さった。
「……朽木、白哉……」
それは、一瞬の刺すような視線。
だが、俺の周りの全ての時が止まるには十分な代物で、徐々に昔の頃を取り戻して来ていたルキアの表情が再び無表情へと変わって行った。
「兄様……!」
突然の事に為す術も無く、ただ、慌てて朽木白哉の後を追うルキアを呆然と見つめながら、俺は何故か不穏な空気を感じていた。
それはルキアになのか。俺になのかは判別出来なかったが……。









そして、その後間も無くして、俺は再び隊を異動する事になった。
十一番隊から――朽木白哉のいる、六番隊へと。
それは異例の事であり、誰もがその異動を不思議がった。
戦闘能力を買われていた筈の俺が、何故急に六番隊へなんか……?
それも、あの、お貴族様のだなんて……。
周りの皆が首を傾げている中、俺は独り、あの時投げ掛けられた、射るような視線を思い出していた。








不穏な空気が周囲を覆う。
誰も気づかぬ内に、じわじわと。
それは機会を窺い、今か今かと飛び出す時を待ち望んでいる。
贄を求めて。
じわりりじわりと……




――to be continue?







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