「しまった……また、あ奴に頼まねば、ならぬか……」
白哉はカレンダーを捲る手を止めると、はたとそう呟いたのであった。





携帯音痴 ―其の参―





〜♪戻れなくても もういいの
 くらくら燃える 地を這って
 あなたと越えたい 天城越え♪〜


とんでもない着メロが、六番隊詰所に響き渡る。
だが、周りの者は皆慣れた様子でそのメロディーに瞬間、ギョッとするような事も無く。寧ろ、そのメロディーが聴こえた途端に、皆一様にその携帯の持ち主に、同情や哀れみと言った視線を向けては、サッと顔を背ける者が多かった。
そして。
「……恋次さん……携帯、鳴ってますよ?」
理吉が、おずおずと恋次に声を掛けると、
「……解ってるよ。言われなくてもな」
普段以上の仏頂面で恋次はそう応え、
「……はい……何すか?隊長……?」
意を決すると、相手に応えた。









そう。
『天城越え』の主とは、恋次の上司であり、ここ六番隊の隊長でもある、朽木白哉であった。
しかし何故に。しかも、よりによって『天城越え』……?もっと他に、らしい着メロはあるのではないのか?と、最初こそは六番隊の面々も、確かにそう思った。
だが、恋次に言わせれば、『これ以上に隊長の事を表している曲はねぇ!!』との事であり、この曲を聞いた瞬間に、何故だか白哉の顔がパッと浮かび、それ以降は『天城越え』が白哉の不断の消えないテーマソングとなってしまったらしいのであるが……確かに、ルキアに対するそれは、『地を這って』どこまでも追い駆けてきそうな感があるので、六番隊の面々も、皆一様に納得をし、今ではその曲が流れる度に、『ああ、また何か難題を隊長から吹っ掛けられるんだな』と、恋次を不憫に思うのであった。


「は……?何すか、隊長?」
「聞こえなかったのか?」
「い、いや。聞こえましたけど。でも……」
「だから、何時も通りまた頼む」
「いや、だからですね!」
「では、頼んだぞ」



――プツッ。ツーツーツー……



無常にも、言いたい事だけを言うと、即座に切られてしまった携帯を憮然と恋次は見ながら、また例の日が来たのかと独り憂鬱になった。
また、『例のあの日』……。
今日は年越しの大晦日。
そして明日は、当たり前だが元旦初日の出。
と言う事は、つまりは。
「……チャッピーぬいぐるみの限定発売日……。
 しかも、何だって……?今年はそれに更にスペシャルが付くだ〜!?」
んだったら、隊長自ら並べよっ!!!!!などとは、到底言えず、恋次は通話の終った携帯を恨みがましく見つめると、力一杯それを握り締め、
「何が哀しくて、あんなくそ寒い、しかもだぞ!?皆は炬燵で蜜柑とか、年越しの蕎麦とか、善哉とか汁粉とか食ってテレビ見ながら温まって、少し早けりゃ雑煮なんか食って!わははと笑いながら温まって年越ししてる最中に!!!!
 何が……そうだよ!何が哀しくてっ!!!!!毎年あげれもしねぇ!限定チャッピーぬいぐるみなんぞを代理で買いに並ばねぇといけねぇんだよっ!!!!!!!」
「れ、恋次さん!!落ち着いて下さいっ!!!!」
うぉぉと独り叫ぶ恋次を、理吉は慌てて宥めようとするが、やはり年季の入ってしまった怒りは濃度が違い、あわや蛇尾丸卍解かと思われた時。



「恋次……恋次は居るか……?」



不意にルキアの呼び声がし、理吉は瞬間、正に天使を見た思いであった。
「る!ルキアさんっ!恋次さんなら、ここに……」
「ルキアじゃねぇか!如何した?こんな所に……」
何の用だ?と、理吉の言葉を遮り、途端に嬉しそうな顔をしてルキアの元へと勇んで近付いて行く恋次。
その解り易いまでの行動に、理吉は内心ほろりと涙を流しながらも、一先ず、隊舎の危機が去って良かったと、一人胸を撫で下ろした。





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