ある時、ふと気付いた事。
いつも賑やかで明るい喧騒に包まれる昼休み。だけど、その輪の中からひっそりと抜け出して、独りで弁当を食べているヤツがいる事に。
そいつは、楽しげな喧騒も姦しさも笑い声も伝わらない、酷く寂しくて静かな場所で独りぽつねんと、黙々とただ弁当を食べると言う作業を行っていた。





だから、一緒





「――るき……っ!」


俺は思わず、その名を呼んでしまいそうになって、慌てて口を手で塞いだ。
余りにも、どこか遠くを見つめるルキアが寂しそうでいて、なのに、凛々しく毅然としていたから。それはさながら、何人たりとも触れる事を許されない、高嶺の花の如くで、俺は声を掛けそびれてしまった。
その間にも、ルキアは食べる≠ニ言う作業を終えてしまうと、パタンと弁当の蓋を閉め、律儀に手を合わせると独りさっさとどこかへと行ってしまう。
「――っ」
何度目かの衝動が俺を襲ったが、しかしやはりその名を呼ぶ事は俺には出来ず、ただ、少しの後悔の念を胸に燻らせながら、その後姿を黙って見つめているしか無かった。





だから、俺は次の日、皆に断りを入れて独りで弁当を喰ってみる事にした。
ルキアがいつもいつも独りっきりで食べている弁当。
だけどそれは酷く不味くて味気なくて侘しくて。俺は一瞬、これは俺がいつも皆と喰ってる弁当なのか!?と疑ってしまった。
皆と喰ってる時はどんなに味気無い弁当でも、上手く感じていたのに。いや、寧ろ、味なんて関係無かった。ただ、皆とわいわい騒いで喰うという事が楽しくて。
俺はこんなにも不味い弁当がある事を、その時初めて知った。
そして、こんなもん、ぜってー独りでなんて喰えるもんじゃねえと思った。





だから、その次の日からはルキアを誘うようにした。
勿論、俺の友人連中と一緒ではなくて。
その為にあいつらと弁当を喰えなくても、俺はいっかな気にしねえ。だって、あいつらとはいつでもつるめるんだしよ。
だけど。
ルキアだけはそれは出来ねえから。
最初はあの無駄にプライドの高いあいつの事だ。案の定、散々憎まれ口を叩いては突っぱねしていたけど、最後には俺があいつを強引に引っ張って行くと言う強硬手段に出たお陰か、あいつがいつも食べている場所で二人、弁当を喰う事が出来た。



「ふんっ!本当に、お前と言う奴は、強引なのだからっ!!」
隣でぷんぷんと、今だご立腹なルキア。
「ははは!だけど、美味いだろ?」
「む?お前がこれを作った訳でも無いのに、何を可笑しな事を訊いているのだ?」
俺の質問の意味を解っていないルキアに俺は、
「ある意味、俺がお前の弁当を作ってるからいいんだよ!」
笑いながら、またもやあいつにとっては訳の解らない応えを返してやる。
「……は?恋次?? ついにお前の頭も如何しようも無い程までにいかれてしまったのか??」
「お前な〜!!……とっ!この胡瓜の漬物貰ったっ!!」
「あ゛〜っ!!恋次〜っ!!!! それは私が、最後にと取って置いた物をっ!!!!!」


ルキアが胡瓜の漬物が好きなのは、流魂街から知っていた事。
そして、ルキアが好きなものは最後に取って置く主義というのも。
だから、これは俺の確信犯。
「へっへっ!お前が最後まで残しているのが悪ィんだろっ!」
好物を取られて、半ば本気で怒っているルキアを見ながら、俺は満面の笑みを浮かべている己を自覚した。
あいつらと喰ってるよりも、尚美味いと感じるのは、相手がルキアだからだろう。
あいつらと喰ってると、確かに楽しいけど、だけど、この懐かしさは感じられない。





共に流魂街での日々を過ごしたこいつだから。
共に流魂街での全ての時を過ごしたこいつだから。





そして、俺が抱くこの想いの為に。
それは更なる感情を引き出して、俺を幸せな一時に浸らせる。
この瞬間は午睡の夢。
だけど、今ある時は確かに現実。





「む〜〜!!」
背中越しには大好物を取られ、未だ不機嫌なルキア。
既に弁当も食べ終わり、「恋次の顔など見たくは無いっ!」と背中を見せたルキアに、俺は苦笑いを浮かべながらも、己の背中に感じる仄かな温もりをじっと感じていた。
こいつが独りで食べている姿を見た時は、あんなにも遠くに感じていたのに、今はこんなにも近くにいる。
ただそれだけの事が俺には嬉しくて。俺はじっと背中に感じる不機嫌な温もりを、甘んじて感じていた。
だが、突然静かになる背中。


「……ルキア……?」


そろそろと肩越しに振り返ってみると、いつの間にか寝てしまっているルキア。俺の背中に己を預け、安心しきった顔で眠るルキアの顔はあどけなくて、流魂街での日々をふっと思い出させた。
だが、それと同時に感じた事は、


「……俺はそんなにも、安心の出来るヤローだってかよ!」


嬉しさ半分、落ち込み半分。俺は微妙な気分でルキアの寝顔をじっと見つめた。
そして、その身体をひょいっと抱き上げると、ルキアが寝ているのを良い事に、俺はルキアを膝の上へと抱きかかえる姿勢を取った。


「この方が俺にとっては楽なんだ」


と、誰が聞いてるでもないのに言い訳を独りごちると、ルキアの肩口に顔を埋めるようにして、俺も惰眠を貪る事にした。
きっと、良い夢が見れるだろうなと思いながら、俺はルキアの甘く清々しい匂いに包まれて、暖かで泣きたくなるような午睡の夢を見た。













――半時後。





「な、な、な…………っ!!!!!!!」


先に目覚めたルキアが、真っ赤になりながらも、状況の把握を必死にしようともがくが、まだまだ夢の中の住人な恋次が更にそれを引き寄せて離さず許さない。最後には鬼道の詠唱がその場一帯に轟いたのは言うまでも無かった。
そしてその後、六番隊副隊長殿は暫しの休養を要する事となったとかならなかったとか。





しかし、それからというものは、ルキアと恋次が仲良く弁当を食べる姿が何度も目撃されたとの事である。






+戯言+
ルキアは恋次と一緒に弁当を食べていたらいいのにな〜と思って出来た妄想話v
そして、常にこんなじゃれ合いのような事をしながらお昼を過ごしてたり。(笑)
後ろで兄ちゃんが青筋立てながら観察してるのもいいな〜。(笑)
しかし、貴族の弁当に胡瓜の漬物はないだろ神凪!(苦笑)
いえいえ、これはですね。きっとルキアが大好物な事を知った白哉が家政婦さんに入れさせてるんですよ!


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