ある時、ふと訊かれた質問。


訊いて来たそいつは、単に冗談話の延長線として、軽い気持ちで訊いて来たんだとは思う。
だけど、俺は返答に瞬間詰まり、その後も暫くそれについて考え込んじまった事を覚えている。
それは、誰もが一度は必ず冗談交じりに質問された事があるだろう問いで。
そして同じく、誰もが迷ったフリ≠しながらも、意地悪そうに、楽しげな表情を浮かべて回答する問い。
だけど、俺には冗談だけでは済ませられない何か≠ェ瞬間閃いて、それでもそんな表情(かお)をやつらに見せる事ななんて出来ねえ。けど、そこはそれ。普段からの仏頂面に救われてか苦笑いを浮かべながらといった態で、俺は周りの皆と同じような答えを、どうにかそいつに返せられた。





そんな事





明日の宿題にも漸く目途がついた頃。俺はふと、あの時訊かれた質問を思い出した。
目の前には、コンと仲良く……若干、語弊はあるかもしれないが、戯れているルキアの姿。
そのルキアの姿を何とはなしに視界に入れながら、同時にあの質問をされた時、瞬間考えてしまった事も思い出していた。
それは、些細な質問だった。





『さて問題です。二人大切なヤツが目の前にいるとして、一人しか助けられないとしたら、お前ならどっちを助ける?』





多分、ケイゴ辺りが『俺か水色かどっちか』だとかくだらない事を泣きながら訊いたんだろうけど、俺の思考は勝手にルキアと親父達とに置き換えていた。
ルキアと親父達と……或いは、ルキアと水色達でもいい。どちらにしろ、俺には到底選べない選択肢だなと、1つ首を振った後、本当にそうなのか?と問い掛けて来る自分がいた事に、俺はゾッとした。


だから。


「なぁ」
「何だ?」
「……お前なら……二人、目の前に大切なヤツがいるとして、一人しか助けられないとしたら、どっちを助ける?」
「はぁ?突然何なのだ!?」
「だからよ!心理テストってヤツだよ。 例えば……俺とコンでもいいや。お前の目の前に、俺とコンがいるとするだろ?」
「……ふむ……」
「で、その両方が……例えば、崖から落ちかけてるとするとして、お前は一人しか助けられないとしたら、どっちを選ぶかってヤツだよ」
何か隣で、コンのヤツがピーピー喚いているようだが、んなのは無視して、俺はルキアが何て答えを返すのか、じっとその顔を窺っていた。


「ああ。何だ、そんな事か」


だが、予想に反してルキアの態度は至極簡単なものであって、回答も凄くあっさりとしたものだった。
「私はコンを助ける。だから、お前は私を助けろ」
「………………は?」
「姐さん!姐さんっ!!それだと心理テストとかいうヤツにならないんじゃ……?」
たっぷりと、30秒程の間を空けて俺が反応を返すのと、コンのヤツが突っ込みを入れるのは同じだった。
「だが、必ず一人は助ける事が出来るのだろう?それならば、力の使えないコンを私が助け、そうして、一護が私を助けると言うのは、酷く利に叶っているのではないのか?」
「……いや……確かに、そうなんだけどよ……でも、それだと質問の趣旨に反してるって言うか……何て言うか……」


隣では、うんうんと頷くライオン。
そんな俺達を、ルキアは可笑しそうに見やると、「まあ、実はこれは、受け売りなのだがな」と自分もとある人物に似た様な質問をして、先程のような回答が返って来たと説明した。



ルキアによれば、ルキアも同じような質問を耳にし、それをそっくりそのままとある人物にしたらしい。
するとそいつは、数秒の間も空けずに、至極あっさりとした顔と声音で、「んなの簡単じゃねえか。俺が隊長を助けるから、お前は俺を助けりゃいい」と答えたんだと。
その際に、「何故だか『る……』と初めに何事かを言い淀んでいたのだが……あれは何が言いたかったんだろうな?」と、あからさまに明白な事をルキアは逆に訊いてきた。が、無論、俺はそんな疑問に応える気なんてさらさら無かったんで、傍で何かを言い掛けたコンを沈没させてすっ呆けたのは言うまでも無かった。


「それでな、ヤツが続けて、それはもう、憎らしげに言うのだよ。
 『ま、俺や隊長が、んなバカなドジなんて踏むわきゃねえんだけどな!お前じゃあるまいし!』とっ!!!!!だから私は『誰が!頼まれてもお前など助けはやらぬ!!』と言ってやったのだ!」


鼻息も荒く語るルキアに、
「姐さんに向って、そんな暴言を吐くだなんてっ!!!!許されざる行為ですね!!」
とコンが勢い良く相槌を打った。
だけど、それに対してルキアは別段それ程怒った風も無く。


「ふふ。 だが……その通り、かな……。
 あいつは……それだけの能力を持っていて……そして、信頼の出来るヤツだから……」


どこか遠くを懐かしむ表情で語らうルキアは、酷く儚げで綺麗で今にも消えてしまいそうで、俺は思わずその腕を掴んでいた。
きっと、コンがいなければ、ルキアを抱き締めていたかもしれない。
それだけの危うさを、ルキアは秘めているように見えたから。
そして同時に、見知らぬそいつに、対抗心が沸いて来るのが解ったから。





――否。それは恐らく、対抗心≠ニ言う名の……嫉妬心





「で?でも、何でお前はんな質問をしたんだよ?」
少しイラつきながら、そう訊く俺に、
「……恐らくは……お前と同じ理由なのかもしれぬな……」
ルキアは真っ直ぐな視線を俺に向け、そう応えた。
「……姐さん……?」
一人、コンが訝しげに疑問の声を上げたが、俺には何と無く解った。
ルキアが何で、そいつにその時、そんな質問をしたのか。
「だが、最後にヤツが、『くだんねえ質問だな!』と言っていたのだが、本当にその通りだよ。 これは、実にくだらぬ質問なのさ」
「……まぁ、な……」


それは俺も感じた事だ。
だが、それでもふと脳裏を過ぎった考えは、消せない事実。


「だけど、ルキア。お前でもそんな事を考える時があるんだな!」
『何事にも仕事熱心なお前が、珍しいじゃないか!』と俺は極力、憎まれ口を叩いて明るく振舞うと、今更ながらに腕を掴みっぱなしだった事に気付き、慌てて離すと、照れ隠しにぐしゃりとルキアの髪をかき回した。
そして、抗議の声を上げるルキアを無視すると、俺は何とも言えないこのむしゃくしゃを、コンにぶつける事にした。



だから、俺は知らない。
あの時、抗議の声を上げながらも俺の言葉に瞬間、ルキアが寂しそうな表情(かお)をした事を。
俺はただ、あっさりと『そんな事』の一言で片付けてしまったヤツに対して、そしてルキアにあんな表情をさせられるヤツがいるという事に対して、ともすれば際限も無く溢れて来そうになるもやもやを、全部コンにぶつけるのに夢中だった。


だから――





「……莫迦者。 ――私でも、悩む事だってあるさ……」





小さく呟かれたルキアの言葉は、空しく誰にも聞かれること無く、俺達の喧騒の中へと消えて行き、後にはルキアのどこか寂しそうな表情(かお)が残った。
そして、





「――『  』……。
 今頃、如何しているのだろうな……」





と仄かに呟かれた名前だけが、何故かその喧騒の中でもしっかりと、俺の耳に残り、俺は益々腹が立って来た。
コンの「ロープ!ロープっ!!姐さん助けてっ!!!!!」と言う声が聞こえる。
そして、それを見て可笑しげに笑うルキアの声も――。













それから暫く、俺の八つ当たりは続き、コンはボロボロになって解放された後、ぶるぶるとルキアの腕の中で震えていた。
だが、その実ルキアの腕の中に居る事が出来て、その顔が幸せそうだったのは言うまでも無かったが。
俺はそんなコンとルキアを視界の片隅に収めながら、今度そいつ≠ノついて、一度ルキアに訊いてみようかなと思った。
少しは相手を知れば、このもやもやも晴れるかもしれない。



――まぁ、逆に増す場合もあるんだろうけど、その時はその時ってもんさ!
俺は1つ欠伸をすると、そろそろ寝るかと就寝の旨をルキアに告げ、ベッドへと潜り込んだ。







+戯言+
何!?これはルキア←一護と言えるのだろうか?(汗)
てか、またもや噂話系でいってみました★
絶対、恋次だったら言いそうだと思うんですが、どうでしょ?
神凪だけでしょうか?
恋次はあっけらかんと、「何悩んでんだよ?らしくねえなぁ!」とか言いつつ、くしゃりとルキアの髪をかき回すのとかvv好きだな〜!!(笑)最初、ルキアが言った事にしようかとも思ったんですが、やっぱり恋次にしてみましたv

それにしても、何て纏わりが悪い終わりになったもんだなあははははーっ!!(涙)
何て言うのんか、神凪は第三者の目で見たノロケ話し?風な話が大好きなんですよ。相手もしくはヒロインは出て来ないけど、第三者がいる事によって、どれ程ラブラブなのかが解るかと言う話……て解りにく〜!(爆)
だって、第三者から見た二人の方が、絶対!それこそ『ラヴラヴ』してる風に感じませんか!?
そんな風な話が書きたいんですけどね〜。てか、書きたかった筈なんですがね〜。蓋を開いてみればまたもやシリアスかよ!?みたいな?(-_-;)そして、無駄に長ひ;。
最後まで読んで下さった方は有り難う御座いました!
次こそは恋次出すぞーっ!絶対恋ルキっ!(苦笑)



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