「ちょっと待ってろ。 今温め直してやるから」
そう言うと俺は、俺の為に用意してあった晩飯を温め直しにかかった。
診療を終えた親父は、遊子達を久々の外食へと連れて行ったから、今家には俺とルキアしかいない。
俺も勿論、誘われたのだが、ルキアの事を考えて断った。
だから、普段は押入れの中で待っているルキアも、居間の椅子にちょこんと座って、俺が晩飯を温めている様を、物珍しげに見ていた。





電子レンジ





「……一護? それ≠ヘ、何なのだ?」
「んあ? ……ああ、これか?」
電子レンジが奏でる音に微かにびくつきながらも、ルキアは不思議そうに俺に問い掛けた。
「これはな、電子レンジって言うんだよ」
俺はその問いに応えながら、いつもよりも多めに作ってもらった夕飯を食卓へと並べる。
漬けもんはどこだったかな〜と、ガチャリと冷蔵庫を開けて、中を覗き込んだ瞬間。
ブハッ!という音と共に、何故かルキアが弾けたように笑い出した。
俺はその様に、ギョッとしながらも、
「な……!? ルキア……?」
訝しげな視線をなげかけた。
ルキアの方を見やれば、涙まで浮かべつつ、机を何度も叩きながら笑っている姿が目に入った。


「ぶ、ぶ……っ!! で、電子……レンジ≠セと……っ!?」
何がそんなにも可笑しいのか、俺は皆目検討がつかないままに、
「……おらよ。 何がんなに可笑しいのか知らねぇけど。 晩飯の用意、出来たぞ」
「む? あ、ああ。忝い」
箸を渡され、瞬間的に手を合わせたルキアであったが、しかし次の瞬間には、またもや『レンジ、レンジ』と呟きながら、笑い出していた。
「……いったい、レンジがどうしたってんだよ?」
何とはなしに、俺は憮然とした気持ちになりながらも、もう一度、同じ質問をしてみた。
「あ、ああ……悪い。 ちょっとな……。
 ――昔の知り合い≠思い出してな」
そうルキアは応えると、ふっとどこか遠い目をして俺から視線を外した。
その瞳は、暫し懐かしげな邂逅が滲み現れ、俺は何故だか無性に腹が立った。
それがどうしてなのかは解らねぇけど、でも仕方がないだろ。
「……あちらにいる頃。 唯一仲が良かったヤツの名と、同じなのだよ」
先程とは打って変って、ふわりと――思わずこっちがドキリとしてしまうような柔らかな笑みを浮かべて、そんな事を告げて来るルキア。その笑顔に瞳に感情に、俺は何故だか腹が立っちまうんだからさ。


「ふ〜ん……。 そのヤローだかは知んねぇけど。 変な名前なんだな」
どこか遠くを――俺では無い。そのレンジ≠ニかいう、ふざけた名前のヤローを、あんな顔で呼ぶルキアに、俺はぶっきらぼうに応えると。
「んな事よりも、早く食べちまえよ。 じゃないと、折角温めたのに、冷めるぞ」
別に、急かす必要なんて無いのに。だけど、そうでもしねぇと目の前の団欒≠、見えねぇヤツに奪われてしまうような気がして、俺は気が付くと、そんな風にルキアを急かしていた。
いつもとは違う。つっけんどな態度に、物言いをする俺の事を、ルキアは訝しげに暫く見ていたが。
「……そうであるな。 確かに――変な名だ」
少し寂しげに、ポツリと呟くと、ルキアはもう一度、今度はあいつの口の中だけで小さく呟いた。





『――レンジ』





と。その瞬間。俺は口の中に放り込んでいた漬物を、必死に咀嚼する事で自分の中で走った、訳の解んねぇ感情を飲み込む事が出来た。
そして、改めて思い知らされた。こいつと過ごして数ヶ月が経つが、俺はルキアの事を何一つ、知らない事に。
いや、確かに死神の事情は少しは解ってるつもりだ。
だけど、それは悪までもつもり≠ナあって、実際のルキアの事情に関しては何一つ知らねぇし、こいつが何を抱えてるのかも知らねぇ。
だけど、今ルキアが呟いた、『レンジ』は違う。
恐らく性別は……男、なのだろうな。そいつは、俺の知らないルキアを知っていて。俺の知らない事情を全て知っているんだ。
そう考えると、堪んねぇ。と思った。
そして、それと同時に、負けてなるものかと思った。


「……ルキア、そのレンジ≠チて言うヤツは、どんなヤツなんだ?」
どこか生硬な声音で問い掛ける俺に、ルキアは気付いた風も無く、
「そうだな…………。
 ――お前みたいなヤツだな」
そう言うと、ニカッと笑ってみせた。
「……俺みたいな……?」
憮然とした面持ちで問い返すと、
「ああ。 だが――、私の大切な仲間=Aだ」
どんな想いでルキアが言ったのかは解らない。
だけど、俺には解った。今言った以上の想い≠込めて、ルキアがそう『レンジ』を評した事が。


「……ふ〜ん。 なら、俺みたいに、物分りの良いヤツなんだろうな」
「はっはっは! お前がか!?」
嘯いて言う俺に、ルキアは豪快に笑うと、
「だが、そうだな。 あいつ――恋次は、お前以上にバカかもしれないな」
『何せあいつは野良犬なのだから』と、種類を変えて笑うルキア。
そんなルキアに、俺は何も言えなくなって、ただ漬物をバカの一つ覚えのように、ボリボリと食べていた。
そして、俺の向かいでは、胡瓜の漬物が好きなルキアが嬉しそうにそれを食べていた。













静かな食卓。
元に戻った俺がルキアをからかい、それにルキアが顔を真っ赤にしてクソ真面目に対抗する。
それは、暖かな団欒風景。
だけど今日。そのいつもの風景に一筋の影が差した。
ルキアは知らず。それは俺の中だけに、暗い蟠りを創る。
負けられねぇと思った。
まだ見ぬヤローに。ルキアを守れるのは俺だけだろと――そう、誓った。






+戯言+
あ、ははは〜。(汗)
一護の性格が変わってるし!
偽者一護になってらァ!
しかも、当初はもっとギャグベースのというか、
恋次をおちょくろうかと思ってたのに、
気付けば何だかシリアス一護?(滝汗)
もっと恋次ネタとレンジを掛けたネタが
書きたかったのに!!嗚呼、恐ろしや。
本編を見る限りでは、恋次はやはり、
報われないんでしょうか!?神凪は断然!!
恋ルキです!!


+ブラウザを閉じて帰還あれ+