「お!いいものを食べているではないか、恋次!」

そう言うと、『私にもよこせ』と、ルキアが恋次のもとへと寄って来た。
昼休みが過ぎて、午後の授業へと時は移り。
気だるい眠さに誘われるままに、真央霊術院の奥まった場所にある芝の上で仰向けになりながら、恋次はちょうど、腹の足しにと買っていたたいやきを食べようと、口に咥えた所だった。





『たいやき半分、幸せいっぱい』





「ふぉひゅふぁ?」
「こら!口に物を入れたままで喋るでない!」

ポカリと恋次の頭を叩くと、ルキアは彼の隣へと腰をおろした。
「ってぇな!」
恋次は咥えていたたいやきを、一端手に持ち直すと、
「お前、午後の授業はいいのかよ?」
頭をさすりながら、そう問い返して来た。


何度勉強してもいっかな成果を上げない鬼道の授業に嫌気が指して、勝手にボイコットを決め込んだ自分は兎も角、鬼道のスペシャリストとなるべく日々精進しているルキアは、こんな所にいてはいけないのではないか?
それに、確か今日の講義内容は……。

「ああ。それなら大丈夫だ。 どこかの誰かさんとは違って、私は優秀だからな!
 既にあの課題はクリアして合格をもらっているのさ」
だから、別段こうして午後の一時をのんびりと過ごしていてもいいのだと、胸を張って宣言するルキアに、恋次は内心苦笑を浮かべつつも、
「へーへー。 俺はどこかの誰かさんと違って、いつまでも追試組みですよ」
口では常の如く、憎まれ口を叩いていた。
そして一口、手に持ったたいやきを食べる。
「そうだぞ、恋次。 お前はもう少し頑張らねば、このままでは確実に、落第が待っているであろう……て、あ! ずるいぞ恋次!私にもよこせ!!」
それを見たルキアが、当初の目的を思い出したとばかりに、その手からたいやきを奪おうとした。

「こら、ルキア! お前、何すんだよ!」

危うく横から伸びて来た手をかわすと、恋次も取られまいとして、すっくと立ち上がった。そして、これ見よがしに頭上高くたいやきを掲げると、

「どうだ、ルキア!これでお前も手が出せないだろう!」

恋次はさも得意げに、悔しげに、ぴょんぴょんと自分の周りを跳ね回る彼女を見下ろした。





――傍から見れば、完全な子供のやり取り。
だが、本人達……いや、ルキアにとっては至極真面目な争奪戦らしく、彼女の顔はかなり真剣であった。
対する恋次はと言えば、そんなルキアの態度に小学生が好きな子を苛めるような心境、とでも言おうか。
実に楽しげにルキアを見下ろす恋次。





「くっ……! ひ、ひきょうだぞ!恋次!!」
「へへん! 悔しかったら取ってみろってんだ!」
「こ、これしきの高さなど……!!」
「はははっ! やっぱり、お前の身長じゃ、無理みてぇだな」



そう言うと、恋次は見せびらかすかの如く、一度ルキアの眼前で、手にしたたいやきをちらつかせると、ゆっくりとした動作でそれを己の口へと運んで見せた。
そして、たいやきを口に咥えたままの状態で、今度はルキアの方へと顔を近付けていった。
眼前にはルキアの悔しそうな顔が、視界いっぱいに広がっている。
ギリギリ、ルキアが背伸びをしても届かない位置まで前屈みになると、恋次は一度にやりと笑ってみせた。
それは、絶対に彼女が届きはしないという、確信が込められた笑み。
だがしかし、
「……人を馬鹿にしおって……!!」
ルキアが低く唸ったかと思うと、次の瞬間には、彼女は今まで以上の勢いのよさで、恋次へと飛びついていたのであった。













「……っ!?!」
全く、言葉を失い、眼を白黒とさせるしか出来ない恋次の目に、得意げな顔をしてにやりと笑うルキアが映った。
「ふふん! ふょうふぁ!ふぇんひ!!」
目の前で、胸を張って見せる彼女の口には、先程まで彼が咥えていたたいやきがあった。
その咥えられた先は、歪な形を刻んではいたが、しかし、まだ恋次の口に咥えられたままのそれと、ちょうど型が合っていて……。

「っ!? おま!ルキアっ!!!!」

慌てて己のたいやきを手に持つと、
「な、な、な……!! 何しやがんだっ!?!」
恋次は声を限りに叫んだ。
激しく打ち鳴らす心臓の音は止まる事を知らないかのように、むしろ、どんどんと心拍数は上がる一方で。
しかし、そんな恋次の内心などはつゆ知らず。
「? 何をそんなに慌てているのだ、恋次?」
『それに、顔が赤いぞ?熱でもあるのではないのか?』と、同じようにたいやきを手に持ったまま、不思議そうにルキアは問い返した。

「と、兎に角!!そ、そのたいやきを寄越しやがれ!!!」

真っ赤な顔をしながら、恋次はルキアに詰め寄ろうとするが、そうはいくかとばかりに、ルキアはバクッと一気にその残りを口へと放り込んでしまった。
半分以下の大きさになっていたとは言え、彼女には少し大きかったのか、頬袋を膨らますハムスターのような顔をして、必死になって咀嚼しようとしている彼女の姿に、恋次は何故か泣きたいような、だがしかしその反面、やっぱり嬉しいような気分になりながら、咽込む彼女の背中をさすってやった。













「み、水……!!」
「……ほらよ」
渡されたお茶を、一気に咽喉へと流し込むと、ルキアは漸く安堵の吐息を吐いた。
「……お前な〜! 人が咥えてるもんに、突然飛びつくやつがいるか!!」
「ふんっ! 半分寄越さない、お前が悪いのだ!」
「『悪いのだ』ってな……」
恋次はそんな、全く現状を理解していないルキアの返答に、深く深く溜息を吐くと、
「……解ったから、ルキア。 ぜってーあんな事……他の奴にはすんじゃねーぞ!」
照れ隠しの為にか、ぶっきらぼうにそう言った。
「? お前は自分が悪かったという事を認めるのか?」
だが、案の定、的外れな理解を示すルキア。
相も変わらず鈍感な彼女の反応に、恋次は苦笑を浮かべると、
「しょーがねーから、ルキア。 今度、お前の分も買ってきてやるとすっか!」
そう言うと、くしゃりとルキアの頭を乱暴に掻き混ぜた。
「うわっ!恋次!!」
「ははは!」





ああ、そうだ。
今度は沢山、お前の分のたいやきも用意しといてやるよ。
だから、ルキア。もう、あんな真似は……人が咥えてるもんに喰らい付くなんて嬉し……い、いや!冗談じゃねー行為はしてくれるなよ!!
て言うか、他人になんかすんじゃねー!
――――お、俺にだけにしとけ!!





ルキアの頭を掻き混ぜながら、そんな事を考えていた恋次であったが、ふと未だ手に握られたままであった自分のたいやきに気付くと、にやりと微かにその口端を歪めた。
そして。
「……ルキア。 お前、これも食うか?」
「恋次?……これはお前の分ではなかったのか?」
「ん? ああ、お前にやるよ」
「本当か! ならば、遠慮無く貰うとするか」
そう言うと、ルキアは嬉しそうに残りのたいやきを口へと運んだ。
今度は急かす相手もいないので、ゆっくりと、味わうように咀嚼するルキア。



「?恋次? 如何したのだ?顔が赤いぞ??」
「な、何でもねーよ!」



じっと、ルキアが残りのたいやきを口へと運んでいく様を見つめがら、恋次はささやかな幸せを噛み締めていたのであった。













自分が今の今まで口に咥えていたたいやきを、ルキアが食べている……。
ちょっぴり変態的な感じもしないではないが、何はともあれ、彼にとっては至福の時であった事はまず、間違いないであろう。








+戯言+
お初、恋ルキと言うよりは、恋次→鈍感ルキアv
細かな設定&時間軸には目を瞑って頂くとして。(苦笑)
よく解らない文になってしまっただ!
やはり初書きは難しい!
しかも、神凪さんはWJ系のネタって突発意外は書くの
苦手なんすよね、実は。(汗)
既にキャラ設定がなされているからと言うか何て言うか。
しかしま!こんなささやかな事でも幸せを噛み締め、
至福の時となってしまう恋次。
もう大好き!(笑)
神凪さんの中では、じゅんじょー(何故に平仮名?/笑)
路線まっしぐらな恋次→鈍感ルキア嬢という図式が、
既に成立しておりますv



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